即効性のある研修を企画するために必要なこと

論理的に考えるスキルを身につけるための研修を検討している企業から声がかかった。
「御社は『ロジカルシンキング』みたいな講座をやっていますか?」

コンサルタントは会社を訪問し、担当者とその上司から話しを聞いた。
ある役員に「うちの社員は報告が下手だ。説明も下手だ。何がどうなっているのか叙述があいまいで、結局何が言いたいのか見えてこない論理的思考力を鍛えろ」と言われたということだった。

話しは進み、研修の具体的な内容に入った。

担当者の上司が言った。
「今回の対象者は特に忙しいので、あまり重たくない事前課題を。そして即効性のあるものを1日でそういう条件でコンペします。」

コンサルタントは言った。
「それは難しい。1日で即効性を求めるのなら、それなりの事前課題をお勧めします。」
できないんですか?他の会社はそういう企画を出していますよ」と担当者。

コンサルタントは言った。
「商談に勝ちたい-お客さんの言い分をそのまま載せた企画書を作るできますとプレゼンする…コンペに勝つために美辞麗句を並べているのではありませんか?」

この言葉を聞いたふたりは「この人、理屈っぽくてイマイチだ」と思った。

熟考の末、コンサルタントは「即効性を出すためにはやはり相応の事前課題が必要」と考え、それに沿った企画を提案した。
「社内で検討し、後ほどご連絡します」という上司の返事でプレゼンは終わった。

数日後、担当者からメールが届いた。
メールには「検討の結果、今回は他社にお願いすることになりました」と書かれていた。

論理的思考力を最初に身につけるべきなのは、この担当者であり、この担当者の上司であり、この会社の人事部だ。

セールストークに流されず、無理なものは無理と推論する論理的思考ができない組織や人間に、即効性のある研修など企画立案できないからである。

出所:中沢努「思考のための習作」

(初稿)2010年 6月29日

無断使用厳禁、パクりコピペ厳禁、無断転載厳禁
(無断転載や無断複製禁止)

 

筆者

中沢 努

早稲田大学文学部で哲学を学び卒業後、同時通訳訓練を受ける。
複数のコンサルティング会社で仕組みによる人間系の問題解決に従事した後、「人間そのもの」に焦点をあてたコンサルティングや教育を開始。

現在は「個の内面に深く入り込む」ことにより組織内の様々な問題解決を行う活動に従事。キャリア30年。

※ 筆者による他の教育資料もご参考下さい。→ ①公開資料集、②コンプライアンス資料庫