自滅する無意志者
懸命に働く人がいました。年収をアップさせたかったからです。
朝はラッシュに揉まれて経済紙。
昼は食事もそこそこに午後の打ち合わせの想定問答。
夜は「あすは直行だ」と呟きながら他の乗客に見えないようページを閉じた隙間から文字を追い、部下が作ったプレゼン資料をチェック。
本屋へ行って書籍をまとめ買いし、休日は自腹でセミナーに参加。
すべて自分のためと言い聞かす。
会社では上司と部下に挟まれ、両方から突き上げられながらもじっと我慢。
ふらふらになりながらも音ををあげなかった。
その労苦が報われる日が来た。
肩書きが変わり、年収は200万円上がった。
上司から祝福され、職場では「すごいね」と囁かれた。
もっと充実した毎日になってもいいはずだったが、実際は違った。
目標数値の桁が増え、部下の数が増し、社内政治に翻弄された。
気力と体力が減り、ストレスが増えた。
日を追うごとに不健康になっていき、家でも職場でも笑わなくなった、というかそういう感情が全く湧いてこなかった…。
こういう人を私は見てきました。
こういう人と一緒に酒を飲んできました。
こういう人の悩みを聞いてきました。
そして思いました。
「みんな『自分』がない」
200万は大金です。10倍すれば2000万円になります。
でもそれと引き換えに、10年間、疲労・ストレス・私生活の乱れを溜め続けねばならない。
その代償はあまりにも大きい。
それらを犠牲にしてでも地位やお金を追うと覚悟した人はそれでいい。
それは嫌だから中の下でもいいと覚悟した人はそれでいい。
悲惨なのは「何だかんだ言っても、地位やお金って大事だよね」と何となく思い込み、その「何となく」に動かされている人です。
悲惨な人とそうでない人との違いは何か。
- 何を意志するのか?
- 今の自分にその「意志」があるか?
- ない場合、それを自覚できるか?
意志しない人は「会社に」、「上司や部下に」、そして「その他全てのしがらみに」振り回されます。
- あなたは意志していますか?
- それはどんな意志ですか?
- 翻弄され、振り回され、吹き飛ばされそうになった時、自身を地面に打ち込むくさびを持っていますか?
出所:中沢努「思考のための習作」
(初稿)2010年 5月31日
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筆者
早稲田大学文学部で哲学を学び卒業後、同時通訳訓練を受ける。
複数のコンサルティング会社で仕組みによる人間系の問題解決に従事した後、「人間そのもの」に焦点をあてたコンサルティングや教育を開始。
現在は「個の内面に深く入り込む」ことにより組織内の様々な問題解決を行う活動に従事。キャリア30年。
※ 筆者による他の教育資料もご参考下さい。→ ①公開資料集、②コンプライアンス資料庫