叱りが部下に通じない・・・空回りする憐れな上司

ある道すがらの出来事だった。
「何度同じことを言わせるの、いい加減にしてよね。あんたのために注意しているのに。まったく、このバカ」

怒鳴り声がした方向に体を向けると、女の子の母親が感情を露わにして子供を叱っている姿が目に入った。

怒鳴られた少女は母親にしぶしぶ従う様子を見せ、やがて母親の言うことに従った。
しかしその目は「うるさいな。分かったふりをしておこう。ホントは全然納得していないけど。」と語っていた。

「あんたのために注意している」と母親は言っていたが、私には、心から子供のことを想い教え諭すというより、怒りや苛立ちの感情を少女にぶつけているだけのように見えた

その光景は私にある上司を思い出させた。

上司が部下を叱りつけた。
「何だその態度は。私がここまでいうのは君が自分の現状に全く気づいていないからだぞ。」
その言いぶりは部下に成長して欲しいという上司としての想いではなく、単に苛立ちという感情の発露…イライラの小爆発…のように聞こえた。
しかし上司はそのことに全く気づいていなかった。

私は思った。
「あれでは部下の心に響かない。部下に自分の現状に気づいて欲しいと言う前に、苛立ちを相手にぶちまけている自分自身の現状に気づく方が先だ。そうでないと部下の心はますます離れる。」

1週間たっても1ヶ月たっても上司は部下を叱り続けた。
しかし、部下の態度は変わらなかった。
上司の苛立ちはますます大きくなった。

出所:中沢努「思考のための習作」

(初稿)2010年 6月16日

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筆者

中沢 努

早稲田大学文学部で哲学を学び卒業後、同時通訳訓練を受ける。
複数のコンサルティング会社で仕組みによる人間系の問題解決に従事した後、「人間そのもの」に焦点をあてたコンサルティングや教育を開始。

現在は「個の内面に深く入り込む」ことにより組織内の様々な問題解決を行う活動に従事。キャリア30年。

※ 筆者による他の教育資料もご参考下さい。→ ①公開資料集、②コンプライアンス資料庫