賞与カットで社長を罵倒した男

ある会社が業績悪化し、社員の賃金をカットせざるを得なくなった。

社長は「毎月のお給料を下げるのは忍びない。みんな頑張っているのだから賞与を削ることで何とかしのごう」と考え、苦渋の決断を行った。

賞与の支給水準を全体的に下げ、特定の人だけが大きく不利益にならないよう慎重を期した。

社員の反応は様々だった。

「やむを得ない」と思う社員が大半であったが、中にはひどく立腹し、賞与を削った社長は間違っている」と非難する男がいた。

ある日のことだった。この会社とは異なる別の会社で株主総会が行われた。

その会社の業績は非常に悪かった。

その会社はのんびりおっとりとした社風で有名だった。
経営者も優柔不断で、なかなか従業員の人件費に手をつけることが出来ないでいた。

創業以来の大赤字。当然配当見送りである。

株主の一人がこう言った。

「今年業績を回復させたA社は昨年大きな構造改革を行った。社長は人件費の削減も辞さないと公言し、実際社員の賃金をカットした。そういうこともしないで業績が悪いと配当を見送るとはなにごとだ。だいたい危機感が足りない。社員の賞与を減らし緊張感を持たせるくらいのことをしたらどうだ。」と経営者を責めたてた。

その発言の主は賞与を削った社長は間違っている」と非難した男だった。

賞与を削った社長を責めた男が同時に賞与を削らなかった社長を非難する。
男はこの矛盾に全く気付くことなく、非難の言葉を浴びせ続けたのだった。

出所:中沢努「思考のための習作」

(初稿)2010年 6月10日

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筆者

中沢 努

早稲田大学文学部で哲学を学び卒業後、同時通訳訓練を受ける。
複数のコンサルティング会社で仕組みによる人間系の問題解決に従事した後、「人間そのもの」に焦点をあてたコンサルティングや教育を開始。

現在は「個の内面に深く入り込む」ことにより組織内の様々な問題解決を行う活動に従事。キャリア30年。

※ 筆者による他の教育資料もご参考下さい。→ ①公開資料集、②コンプライアンス資料庫