何が組織や社員や人間を変えるのか?

社内の雰囲気が悪く、後ろ向きな行動が蔓延している会社があった。
改善しようと何度も試みたが、全てに失敗してきた会社だった。

社長曰く、
「先生にこんなこというのも恥ずかしいかぎりですが、うちの社員は危機感が足りない。会社がこんな状況なのに『昇給額が少ない。これではモチベーションが上がらない』などと言っている。もっと危機感を持たせてくれませんかね。」

社員曰く、
「外部の人であるコンサルタントのあなたにこんなこというのは恥ずかしいのですが、社長に問題があるんですよ。関心があるのは社内政治の動向と自分の地位の維持ですからね。」

私は社内の実態を調査した。

確かに、社員の危機感は薄かった。
確かに、社員の昇給額は少なかった。
確かに、社長は社内政治の動向ばかり気にしていた。
確かに、社長は自分の地位確保に大きな関心を寄せていた。

調査の結果分かったことは、社長の言っていることはその通りだし、社員の言っていることもその通りということだった。

私は思った。
「社長も社員も同じ穴の狢だ。どっちも欲が張っていて、本来やるべきことが見えなくなっている。」

私は意を決して自分の見解を社長に伝えた。
社長は気分を害したようだが、私の話しをじっと聴いた。

私は意を決して自分の見解を社員たちに伝えた。
社員たちも気分を害したようだが、私の話しをじっと聴いた。

長い年月がたち、会社は変わった。

社長は思った。「あの一言があったから、今の我が社がある」
社員も思った。「あの一言があったから、今の私たちがいる」

組織の再生は「現実の直視」から始まる。
社員の再生は「現実の直視」から始まる。

そして人間の再生も「現実の直視」から始まる。

出所:中沢努「思考のための習作」

(初稿)2010年 6月21日

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筆者

中沢 努

早稲田大学文学部で哲学を学び卒業後、同時通訳訓練を受ける。
複数のコンサルティング会社で仕組みによる人間系の問題解決に従事した後、「人間そのもの」に焦点をあてたコンサルティングや教育を開始。

現在は「個の内面に深く入り込む」ことにより組織内の様々な問題解決を行う活動に従事。キャリア30年。

※ 筆者による他の教育資料もご参考下さい。→ ①公開資料集、②コンプライアンス資料庫