最高の研修が実現した瞬間

受講生の目は涙でぬれていた
企画した人事部の人も泣いていた
私も泣いていたが…たぶん涙ぐんでいることは見透かされていたであろうが…わざとそっけない態度をしていた。

私が担当する研修で受講生が涙する場面は度々あるのだが、企画した人も含めて関与者みんなが泣いたものはあまりない。

その研修はそれくらい心に沁みた研修だった。

なぜその研修がそこまで盛り上がり、企画者を含めた全員が決して言葉だけでは伝えることのできない…それを経験した人しか本当にはわかり得ない「何か」を…体験できたのか。

その研修は私にとっても企画した人事の人にとっても「自分がつくりあげた」研修だった。

1週間、朝から晩まで議論し、本音をぶつけ、感情的な軋轢も恐れず、読み、聞き、書き、考え、私は彼らの詰めの甘いアウトプットを差し戻し続けた
それを見つめる企画者は自分の企画に強いオーナーシップを持ち、研修に挑んでいた。
私の頭と心と体は一挙手から一投足に至るまで全て企画者の目にさらされた。
企画者は私に意見し注文をつけ、私はそれらに基づきセッションの軌道を修正していった。

私は夜中に企画者の電話でたたき起こされ「今議論がもめている。すぐ降りてきてくれ」と言われ、ボサボサの頭で会場の部屋へ行き議論を整理・仲裁した
企画者は会場の準備だけではなく、一部にアテンドするだけでもなく、前日に会場入りし、受講生を迎え、研修が始まった瞬間から研修が終わり全員がいなくなった空の部屋の空気を感じるまでずっと居続けた。

それくらい本気だった。
それくらいエネルギーを注ぎ込んだ。

企画者も、受講生も、私も、共に過ごし、同じ飯を食らい、同じ怒気を感じ、共に笑った。
受講生と企画者と私の3者は昼も夜も一緒に過ごし、すべてを共有した。

研修結果を判断する指標にはいろいろなものがあるが、その研修は私がこれまで担当したものの中で最高のものだった。
それを可能にした最大の理由は「全員の参画と協同」にあったと私は信じている。

出所:中沢努「思考のための習作」

(初稿)2010年 6月30日

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筆者

中沢 努

早稲田大学文学部で哲学を学び卒業後、同時通訳訓練を受ける。
複数のコンサルティング会社で仕組みによる人間系の問題解決に従事した後、「人間そのもの」に焦点をあてたコンサルティングや教育を開始。

現在は「個の内面に深く入り込む」ことにより組織内の様々な問題解決を行う活動に従事。キャリア30年。

※ 筆者による他の教育資料もご参考下さい。→ ①公開資料集、②コンプライアンス資料庫